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研究紹介

  • 研究概要
  •  今から約45億6,600万年前、われわれの太陽系は「原始太陽」とその周りをとりまく「原始太陽系星雲」という形で誕生しました。観測により太陽系以外の恒星系についても同様に誕生している様子が数多く発見されており、一般的に中心の恒星の周りを取り巻いている構造を「原始惑星系円盤」と呼んでいます。原始惑星系円盤には水素やヘリウムからなるガスと大きさ0.1〜1μmという非常に小さな塵が無数に含まれていて、その小さな塵がお互いに集まって成長し現在の太陽系にあるような惑星を形成すると考えられています。

     塵が惑星まで成長する過程は、大きさが約1kmの微惑星という天体の形成前後で分けられます。微惑星から惑星の形成までは天体同士の相互の重力が支配的なのに対し、塵から微惑星の形成までは重力がほとんど効きません。そのため、微惑星形成の有力なモデルとして、重力以外の力(例えば、ファン・デル・ワールス力)で成長する「付着成長」と塵が原始惑星系円盤の中心面に十分に沈殿することで形成した塵の層で発生する「重力不安定」の2つが考えられています。

     私はこれらのモデルのうち、後者の重力不安定による微惑星形成について研究しています。現在は、原始惑星系円盤中で生じていたと考えられている「ガス乱流」の効果によって塵が十分に沈殿することができず、そのため間接的に塵の層での重力不安定が発生するのは難しいと考えられています。それに対し、私が明らかにしたいと考えていたのは『重力不安定が発生する状況が満たされたときに、本当に重力不安定によって微惑星が形成するのか、形成するならばどのように形成するのかを数値シミュレーションで調べる』ことでした。

  • 研究詳細

  • 研究の背景

     塵の層の重力不安定による微惑星形成のモデルは、Safronov(1969)、Hayashi(1972)、Goldreich and Ward(1973)によってそれぞれ独立に提唱されました。その後、ガスと塵の運動を考慮することで、重力不安定には2つのモードがあることが発見されました(Ward 1976; Coradini et al. 1981)。またSekiya(1983)により、塵の大きさが十分に小さい場合に塵とガスが同じ振る舞いをするという「1流体近似」を用いてくわしい解析計算を行われ、塵の層が重力的に不安定になる「臨界密度」とそのときのもっとも不安定な波長が求められました。Sekiya(1983)では塵の層の密度が中心面から鉛直方向に一様であるという仮定がなされていましたが、Yamoto and Sekiya(2004)によって非一様な場合についての計算も行われました。この論文により、臨界密度はそれほど変わらないものの、そのときのもっとも不安定な波長は塵の層の密度分布に大きく依存する(つまり、形成する微惑星の大きさが塵の層の密度分布に大きく依存する)ことが示されました。

     しかし近年は、塵の層が重力的に不安定になることは難しいと考えられています。原始惑星系円盤中ではガス乱流が発生していると考えられており、この乱流が円盤の中心面への塵の沈殿を妨げると考えられているからです。ガス乱流の要因は、磁気回転不安定(Balbus and Hawley 1991)、シアー不安定(Cuzzi et al. 1993; Ishitsu and Sekiya 2003)などが考えられていて、乱流が生じている事実は観測によっても支持されています。そのため、塵の層が重力的に不安定になるまで塵が沈殿することは難しく、微惑星は塵同士の付着成長によって形成したと考えるモデルが優勢となっています(Blum and Wurm 2000; Beckwith et al. 2000)。

     では、塵の層の重力不安定による微惑星形成は完全に否定されたのでしょうか?実は、原始惑星系円盤中で乱流が生じていても、塵の層が重力的に不安定になれる可能性が2つ示されています。1つ目は、塵が十分に成長してガスとは独立に運動をし始めることで円盤中心面に沈殿でき、やがて重力不安定が生じるというモデルです(Weidenschilling 1980; Michikoshi and Inutsuka 2006)。そのときの塵の大きさは約1〜10m。しかし、約1mの大きさの塵は中心星に向かって落ちていく時間も非常に早く(〜100年 from 1AU)、さまざまな大きさの塵が含まれる塵の層では分散速度が大きくなって重力不安定は生じないとも指摘されています(Weidenshilling 1995)。2つ目は、原始惑星系円盤中のガスに対する塵の面密度の比が太陽系組成に比べて十分に大きい、もしくは局所的にでも大きくなるような現象が起これば重力不安定が生じるというモデルです(Sekiya 1998)。このモデルが提唱されて以来、面密度比が大きくなるメカニズムがいくつも提唱されています(塵の増加:Youdin and Shu 2002; Rice et al. 2004; ガスの減少: Throop and Bally 2005)。

     今までのところ、付着成長と重力不安定のどちらのモデルによって微惑星が形成したかはまだよくわかっていません。その理由は、確固たる結論を得るために必要な部分に関して、どちらのモデルにもまだよくわかっていない点が残されているからです。前者(付着成長)については、原始惑星系円盤中の塵同士がどの程度の速度でぶつかっているのか、ぶつかったときにどのような振る舞いをしているのか(つまり、どのように付着するのかもしくは跳ね返るのか)が大きくモデルに依存します。後者(重力不安定)については、これまでの計算がほとんどすべて線形解析なので重力不安定によって微惑星がどのように形成するのかがよくわかっていません

     私は、これらの研究背景を考慮して『重力不安定が生じたとして、どのように微惑星が形成するのか』を数値シミュレーションで調べています。

    研究成果(Yamoto and Sekiya 2006)

     原始惑星系円盤中にはガスと塵が共存しています。塵の大きさが十分に小さいとき、塵はガスとほぼ同じ運動をします(これは、部屋の中で浮かんでいる埃の振る舞いをイメージするとわかりやすいと思います)。ところが、塵が成長すると塵の運動はガスの運動から逸脱し始めます。Yamoto and Sekiya(2006)では、太陽からの距離が1AUであるとしたときに塵の層に含まれる塵の大きさが約5cmの場合(Model 1)と約15cmの場合(Model 2)について数値シミュレーションを行いました(それぞれのモデルで塵の大きさはすべて同じであると仮定。塵の集合を流体として取り扱い、ガス流体と同一サイズの塵流体の「2流体」で計算。local近似を採用し軸対称を仮定。初期条件として塵の層が重力不安定の臨界状態に達していて鉛直方向の密度構造はGauss分布であるとし、シアー不安定を回避するために動径方向のガスの圧力勾配は無視している)。

     Model 1では、塵の層が重力不安定によって中心星を取り巻くリング状に変形することが示された。この結果は線形解析によって以前に示されていた(Sekiya 1983; Yamoto and Sekiya 2004)が、重力不安定が生じて塵の層が変形する様子を流体力学的にシミュレートしたのはこの研究が初めてです。

     一方Model 2では、塵の層が重力的に不安定になっているにもかかわらずリング状に変形することなく塵がますます中心面に沈殿して非常に薄い塵の層が形成するという結果が得られた。その理由は、塵の大きさが大きいほど塵の層の鉛直方向の自己重力も大きくなるために、約15cmの塵では重力不安定が成長するよりも早く塵が沈殿してしまうためです。これは、これまでの重力不安定の研究ではほとんど議論されたことのない過程です。

    今後の課題

     Yamoto and Sekiya(2006)では軸対称を仮定して数値シミュレーションを行いました。したがって、動径方向の重力不安定性しか考慮できていません。しかし、重力不安定は公転方向にも生じることが知られており、成長は公転方向の不安定(非軸対称モード)の方が早いと言われています。したがって、重力不安定による微惑星形成を調べるためには必然的に非軸対称の3次元数値シミュレーションが今後の大きな課題です。

     またYamoto and Sekiya(2006)ではシアー不安定を回避するために動径方向の圧力勾配を無視していますが、圧力勾配を無視しない場合について(軸対称にもかかわらず)非常に興味深い傾向が見られます。

     塵の層の重力不安定をシミュレートする方法は流体力学的手法に限りません。すでに、重力多体計算を利用して重力不安定を調べた研究が複数存在します(Tanga et al. 2004; Furuya 2004; Michikoshi et al. 2007)。今のところ流体計算では塵の分散速度を完全にゼロとした計算しかないのに対して、重力多体計算では塵の分散速度を任意に設定し塵同士が接触したときにどういう振る舞いをするか(つまり、付着するかもしくはどれくらいの反発係数で跳ね返るか)を決められます。これは、より大きく成長した塵からなる層の重力不安定性を調べる上で非常に有効です。塵は重力多体計算で行い、ガスは流体計算で行うhybridな数値シミュレーションコードが構築されることにより、塵の層の重力不安定の研究が一気に進むことが期待されます。


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